「石神問答」データ化プロジェクト

柳田国男の『石神問答』を新字新仮名遣いへ改めつつテキストデータ化するプロジェクトです。

底本は国立国会図書館デジタルコレクションの『石神問答』創元社版(1941年)を使用しています。

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1914574

目次

概要

書簡一六 柳田より伊能氏へ

書簡一七 柳田より山中氏へ

書簡一八 山中氏より柳田へ

書簡一九 山中氏より柳田へ

書簡二〇 柳田より山中氏へ

書簡二一 柳田より伊能氏へ

書簡二二 柳田より白鳥博士

書簡二三 遠野なる佐々木繁氏より柳田へ

書簡二四 柳田より佐々木氏へ

書簡二五 山中氏より柳田へ

書簡二六 柳田より山中氏へ

書簡二七 山中氏より柳田へ

書簡二八 柳田より山中氏へ

書簡二九 柳田より白鳥博士へ

書簡三〇 柳田より佐々木氏へ

書簡三一 佐々木氏より柳田へ

書簡三二 柳田より山中氏へ

書簡三三 柳田より緒方翁へ

書簡三四 柳田より松岡輝夫氏へ

追録六十六條 各書簡の後に分載す

十三塚表

現在小祠表

挿画目録

一 笠地蔵

二 三種のオシラサマ

三 十三塚の排列

四 大聖換気天

概要

  • シャグジ、サグジまたはサゴジと称する神あり
  • 武蔵相模伊豆駿河甲斐遠江三河尾張伊勢志摩飛騨信濃の諸国に亘りてその数百の小祠あり
  • シャグジに由ありと見ゆる地名は一層分布広し
    • 本書の目的は主としてこの神の由来を知るにあり
  • シャグジは石神の呉音すなわちシャグジンなりと云うこと現在の通説なるがごとし
  • 石を神に祀れる社は甚だ多し
  • 延喜式の時代にも諸国に許多の石神社あり
  • 近代においても石を神体とする諸社の外に社殿はなくて天然の霊石を排祀する者あり
    • 吾人が天然の奇跡石と目する者の中にも場所形状において多少の人工を加えたるあるべし
  • また多くの石像石塔あり
  • 道祖神姥神子ノ神等も石神なり
  • 単に石神と称する小祠も今日なお多し
  • 石神には対立の者多しシヤグジにはこのことなし
    • シヤグジの名称は独立の事由に基づくもののごとし
  • 鹽尻にはシヤグジ三狐神の転訛ならんと云えり
    • この説根拠なし
  • 稲荷宇賀神田ノ神等とシヤグジとは併存せり
  • 南留別志にはシヤグジは赤口神なるべしと云えり
  • 赤口赤舌は暦の悪日の名にして神の名にあらず
  • ○○によれば大歳の門神中最も凶猛なる二神の番日を赤口赤舌と云いて嫌忌する習慣ありき
    • 大赤小赤のシヤクはむしろシヤグジと同源より出づと言うべきなり
  • 地方によりてはシヤグジをオシヤモジサマとも云う
    • これシヤグジを杓子と唱うるがためなり
  • 杓子を報賽とする社あり
  • 杓子を護符とする信仰あり
    • 中古の思想においては杓子は霊物なりき
  • シャグジは道祖神なりと云う説あり
  • 道祖神の祠は全国に亘りて現存す
  • サヘノカミは塞神または障神の義なり
    • 道祖の祖はもと阻碍の阻なるべし
  • 山中に道祖神祠またはこれにちなむ地名多し
    • これを行旅の守護神となすは信仰の一転なり
    • さらに幸ノ神の字を用いるに及び信仰は再転せり
  • 道祖神石を祀りまたは石を報賽とすることは今古を通じて異なることなし
  • 道祖神早くよりサヒともいえり
  • 家の敷居をサイと云う
  • サヰと云う神名地名も古し
  • サヰはあるいは四方の義にて外国語にてはあらざるか
  • 道祖神の本地仏は地蔵尊なりと云う
    • 塞神祠と石地蔵は一体の両面なり
  • 地獄変相中のサヒノカハラは近き世の思想に出づ
    • サヒノカハラおよびシヤウヅカは現世の地名にて塞神に出づ
  • 道祖神を縁結びの神と云う
    • この信仰シヤグジにも移れり
  • この神の神体にはけしからぬ物あり
  • また報賽の具としても同様の事実あり
  • 道祖神の神体に歓喜天を齋きけるあり
  • 古くは男女二神を奉祀して岐神と称せしこと扶桑略記に見ゆ
    • クナドはサヘと同じく防塞の義なり
  • 門上も双神にしてかつ石神なり
  • 儀軌の堅牢地神は歓喜天に似たり
    • 歓喜天を塞神と習合したるは障礙神の義に基づけるなるべし
  • 歓喜天または聖天は障礙神または象頭神とも称せらる
    • 象頭と云うは双神の要望によれる地名なり
  • 象頭またはサウヅという地名諸国の山地に多し
    • 右は仏徒が地鎮の祭を営みし場所なるべし
  • 僧都殿と云う魔所ありしこと今昔物語に見ゆ
  • 道祖神は猿田彦神なりと云う説あり
    • 右は衛神の古伝に基づけるならん
  • 猿田彦神は人望ある神なりき
  • この神を土祖神と称するは久しきことなり
  • 猿田彦神に付会せる神は極めて多し
  • 庚申を猿田彦神なりと云う
    • 庚申は道家の説に出づ
  • 和楽に似ては庚申を行路神となせり
  • ミサキと云う神あり
  • 諸国の三崎に猿田彦神なりと云うもの少なからず
    • 右は古事記の御前仕えんの記事に出づるか
    • 猿田はサダと訓みサダとミサキは同義なるか
    • 鼻と云い伊豆と云うもこの縁語なるか
  • 海岬をサダと云う所伊予土佐大隅出雲にあり
    • されどミサキは単に辺境の義にして昔は海角にのみ限らざりしかと思わる
    • 野のソキ、山のソキのソキはミサキのサキと同源の語なるべし
    • すなわちミサキは辺境を守る神の義なり
  • 昔は四堺四隅の祭に道饗祭あり
  • 道饗には久那度神を祀る邪神の侵入を防ぐなり
    • 道饗祭ようやく衰えて御霊会大に盛んなり
  • 京師には八所の御霊あり
  • 御霊会は疫神排斥の祈願報賽を目的とす
  • 御霊は冤死者の厲魂を齋くと云えり
  • 御霊社は今も諸国に多し
    • アラヒトガミを御霊の義と解するに至りしこと久し
  • 現人社という社あり
  • 荒神の祠全国に亘りて多くあり
    • 荒神とアラヒトガミとを混ぜしものあり
  • 荒神山神の語は古くより正史に見ゆ
    • 荒神を地主とする思想はむしろ本邦独特の発展なるべし
  • 四方神としての荒神は稀にあり
  • 八方神としての荒神は甚だ多し
  • これを八面荒神八大荒神と称す
  • 荒神を竈神とする信仰の起源は不明なり
  • ただ竈神を祀ることは古来の風なり
  • 漢土の竈神には庚申の三尸蟲と同一なる信仰ありき
    • 日本の荒神には仏教道教の思想複雑に混同し来たれるもののごとし
  • 荒神にも双神の思想あり
  • 山神は由来極めて久し
  • 狩人樵夫石切金掘の徒ともにこれを祀る
    • 新たに地を拓き居を構うる者またこれを祀りて邑落の平安を祈願せしか
    • 山祇の信仰は世とともに発展したり
    • 山王また日吉諸社は山神なるべし
    • 費用四の大将軍社を石長姫なりと云うはこの女神が大山祇の御娘なるがためなるべし
  • 姥神もまた山中の神なり
    • 姥神の名には三種の起原混同せるがごとし
    • 山姥は伝説的の畏怖なり
    • 巫女居住の痕跡諸国の山中にあり
    • 姥神はすなわちオボ神にはあらざるか
  • 姥石と云う石多し
    • 石塚と土壇と相互に代用するは有り得べきなり
    • 列塚も一種の神並なるべし
    • 立石次第に多く塚を築くの風止む
  • 塚の那波何か意味あるべくしてほとんどすべて不明なり
  • 塚には人を埋めざるもの多かるべし
  • 諸国に十三塚と称する列塚あり
    • 多くは邑落の境上に築きたるがごとし
    • 一の大塚と十二の小塚より成れるがごとし
  • この形式は出雲風土記神名樋山の石神に似たり
  • 地鎮の趣旨に基づくものなるべきは容易に推測し得るもなぜに十三なるかは不明なり
    • 大日を中心とする十三仏の拝祀右と因縁あるに似たり
    • 十二神の信仰は種々の様態をもって今日に伝わる
  • 左義長の壇に十二の青竹を用いる
  • 公家の左義長は正月十五日と十八日と再度あり
  • 十八日の左義長には唱門師これに与る
  • 唱門師は一種の巫祝なり金鼓を打ちて舞う
  • 十五日の左義長は今もその式を民間に伝う
    • 左義長の壇は厄神塚に似たり
    • 厄神塚は御霊会の山及鉾の先型なり
    • 塚は定著の祭壇にして山及鉾は移動する祭壇なり
  • 送り物の習慣は今日も塚と因由あり
  • 信濃越後出羽にては左義長と同日同式をもって道祖神の祭を営む
  • 武蔵の道祖神祭も正月十五日なりこの日社頭に松飾を焼くの風存するものあり
    • サギチヤウの語は舞踊の歌曲に出づるか
    • 鷺宮という社ありこれも因由あるか
  • サギチヤウをトウドと云う
  • 唐土権現藤堂森等諸国に存せり
    • 森には塚または壇の遺址なるもの少なからず
  • 今日のいわゆる神道には輸入の分子なお多く存留せり
  • 仏教はこれを取りて彼に入れたれども道教の信仰は自ら来たりてこの中に混入せり
    • 殊に道教の渡来は仏教よりも古し
    • 八百万神の名のごときは陰陽師の所説なるべし
    • ただ道教の伝統には些かの統一なし
  • 公家また必ずしもこれを重視せず
    • 世降りては暦法も天文道もともに再び迷信の食物となれり
  • 道教の信仰は破片となりて海内に散布す
    • しかもその威力は決して少小ならざりき
    • 思うに結集以前の道教はその本国にありてもまたこのごとく錯雑なりしものならん
  • 日本に手も道教第二期の隆盛は最も思想の統一を欠きたる足利時代にあり
    • この時代には仏教もすでにこれを利用して自家の勢力を張る具となすことあたわざりき
  • しかれども道教の方は却りて仏教に依りて立たざるを得ざりしなり
  • 要するに右二種の宗教は癒着して一奇形をなせしなり
    • いわゆる両部神道なるもの実は三部の習合なり
  • 蕃神信仰の伝搬には古来鉦鼓歌舞の力を借りし例多し
  • 御霊、設楽神の類みなこれなり
    • おれ恐らくは古シヤマン道の面目なるべし
  • 公の記録にも渡来神の記事すでに多し
    • この他漸くをもって民間に入りし者さらに多からん
  • 大年神の記事は古事記に見ゆ
  • その十六の御子神と云うは各種の信仰の集合なり
    •  古事記中の同文は竄入なりと信ず
  • 竈神、山神、田神、宅神は皆この中に包含せらる
    • 聖神は暦法より出でたる神ならん
    • 大年神は大歳なるべし
  • 後世大歳の信仰衰えてこれを八王子の一となす
  • 八王子神は日吉にも祇園にも夙にこれを説けり
    • ただこれを午頭天王の子とし天王を素戔嗚尊と云うがごとき説は存外近き世の発生なり
    • 祇園牛頭天王縁起および簠簋内伝はともおに足利初期になれるに似たり
  • もっとも素戔嗚尊を行疫神なりと云うことはその以前より存在し説なり
    • 簠簋の八王子神の名目はまた雑駁なる集合なり
  • 暦の八将神はすなわちこれなり
  • また八竜王に配し古史の五男神三女神に付会す
    • すべて八の数の思想に基づきて作り上げたる説なり
    • 八王子の中にも大将軍神は孤立して特色を有す
    • 洛東の将軍塚はこの信仰に出づ
  • 諸国に将軍塚あり信濃なるは山頂の列塚なり
  • 大将軍は閉塞を掌る神なり
    • 将軍地蔵はまた同一系統に属するか
    • 地蔵は仏教にても地神なるがごとし
  • 武家時代におよび文字に基づきてこれを軍神として崇敬せり
    • 守宮神守公神もまた文字にちなみて信仰せられしか
  • 二三の国にては国府の地にこの社存せり
    • 将軍塚と守公神とは因由あるか
  • また司宮神、主宮神、四宮神と称する所もこの神なるべし
    • 地名にはソクジ、スクジというものあり同じ神の旧祭場なるべし
    • 守宮神、司宮神等はすべて当て字にて、もとはソコのすなわち辺境の神という義なるべし
    • 十禅師は注連神にしてまた防境の神なるか
  • 釈日本紀には壘または塞をソコと訓めり
  • 和名抄にてもまた同じ訓あり
    • ソコはサキ、ソキ、遠サカル、裂ク、避クなど、同じ語原より出づと信す
  • 塞、柵ともに漢音にてもサクなり
  • あいぬ語にてもサクに界障の義あり
  • 古き我国の地名にも佐久郡佐久山佐久島佐久間などいうものはなはだ多し
    • サクには我国にても辺境の義ありしに似たり
    • 延喜式の諸国の佐久神社は塞神のことならん
    • しこうして佐久神はすなわち今日のシヤグジなるべし
  • シヤグジを土地丈量に因縁ある神なりという口碑あり
  • 延喜式臨時祭の巻に障神祭あり
    • 障の字あるいは鄣と書す塞と同義なり
    • 障神はすなわちまたサヘノカミなり
  • 諸国に何障子または障子何と云う地名多し
    • 障子はすなわち障の神を祭りし場所なり
    • あるいはこれを精進、精進場などと書す転用なり
  • 精進はアイヌ語に出づと云う説あり
  • 我民族の国を建るや前には生蕃の抵抗あり後には疫病の来侵あり四境の不安絶えずすなわち特に地神の祭式に留意し境界鎮守の神を崇拝したるゆえんなり
    • 三十番神の信これにもとづく
    • 門客神の斉紀また盛んに起れり
  • 日を忌み方位を択ぶの法は道家夙にこれを数えたり
  • しかれどもこれととも厭攘の祈願、防護の悃請を神に掛くるは最も自然の業なり
    • しこうして石をもって境を定むる本邦固有の思想は塞神の信仰に伴いて永く存続することを得たり
    • いわゆる神護石の保存もこの結果なり
    • 石棒石剣のごときはことに霊物なり
    • 仮に和合神の信仰に混ずることなくとも神として久しく幽界に君臨すべきものなりき
    • ゆえにシヤグジは石神の呉音にあらずとするもこれを石神と称していささかも誤謬なし
    • 赤口神の説牽強なりといえども義においては即ち通ぜり

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